こんにちは、ヒロです。
みなさんは、肉を調理したとき、中までちゃんと火が通っていなかったり、焼きすぎて固くなってしまったりしたことはありませんか?そんなときは、「Anova Precision Cooker」が便利です。
Anova Precision Cooker(以下、Anova)は、肉などの食材を真空調理するための調理器具です。真空調理とは、1979年にフランスで開発された調理法の1つで、「焼く」、「蒸す」、「煮る」に次ぐ第4の調理法とも呼ばれています。真空調理では、樹脂製の袋に食材を入れて空気を抜いて真空状態にし、袋ごと一定の温度で所定の時間加熱します。タンパク質は、加熱により温度が上昇すると、63℃から凝固が始まり、68℃から水分が分離し始めます。真空調理では、タンパク質が固くなる温度より低い温度で食材を長時間加熱することにより、肉などの食材全体を均一に柔らかく仕上げることができます。また、食材を煮る(茹でる)場合と比べ、食材に旨みや風味、栄養素等を多く残すことができるといったメリットもあります。真空調理は、100℃以下の比較的低い温度を保ったまま所定時間調理することから、低温調理、定温調理とも呼ばれています。
Anovaの実際の使い方は以下の通り。
まず、適当な鍋にAnovaをセットします。次に、フリーザーバッグ等の耐熱性のある樹脂製の袋に食材を入れます。このとき、袋から空気をできるだけ抜き、食材と袋の内面とが密着するようにします。
そして、鍋に水を入れ、食材の加熱温度と加熱時間をAnovaに設定します。本体のみでも設定できますが、スマートフォンと連携させれば、料理に応じた加熱温度と加熱時間をアプリで簡単に設定できます。
Anovaをスタートさせると、設定した加熱温度まで水の温度が上がりアラームが鳴るので、食材を入れた袋を鍋に投入します。空気は断熱性が高いため、袋の中に空気が残っていると水の熱が食材に効率よく伝わりません。そのため、袋から空気をしっかり抜いておく(略真空にしておく)ことが大切です。
Anovaは、鍋の中の水を撹拌しながら加熱します。これにより、鍋の中の水(お湯)全体の温度が設定温度に正確に維持されます(設定温度との差:±0.1℃程度)。
設定した時間が経過するとアラームが鳴るので、鍋から袋を取り出します。写真は、54℃で1時間加熱した肉を鍋から取り出した状態です。表面が熱で茶色に変化しています。
最後に、肉の表面を強火のフライパンで短時間焼きます。表面を焼く理由は、表面を焦がして見た目、食感、味をより良くするためと、肉の表面を殺菌するためです。
見てください!断面の端から端まで(edge to edge)完璧なミディアムレアです。パサつきが一切なくジューシーで、とても柔らかくて美味しいステーキが完成しました。素人の私でも、火加減を気にすることなく、肉をうまく調理することができました。
調理中にAnovaが触れるのは水だけなので、Anovaが汚れることはほとんどありませんが、下部の筒状の部材(skirt)を取り外せばAnovaを簡単に洗浄することができます。
skirtを取り外すと、Anovaには、コイル状に巻かれたヒーターとスクリューが設けられているのがわかります。棒状の温度センサーのようなものも見えます。スクリューの回転により、skirtの側面の穴から内側へ入った水は、一部がヒーターに接触し、skirtの下部の穴から外側へ流れ出ます。おそらく、温度センサーで水温を検出し、ヒーターの作動(発熱量)をフィードバック制御しているのだろうと思います。
Anovaを開発したAnova Applied Electronics, Inc(以下、Anova社)は、2013年に米国カリフォルニア州サンフランシスコで設立されたスタートアップ企業です。Anova社は、2014年、クラウドファンディングサイトで1万人の支援により180万ドル(約2億円)の資金を調達し、Anovaの製品化に成功しました。その後、Anovaの売れ行きは米国を中心に大変好調のようです。
従来、真空調理をするには、庫内を長時間一定の温度に保つことができるコンベクション(対流式)オーブン等の大掛かりで高価な設備が必要でした。そのため、真空調理は、一部のレストランや食品工場等での使用に限られていました。Anovaなら、一般家庭で誰でも普通の鍋等を使って簡単に真空調理をすることができます。Anovaは、その点で画期的な製品だと思います。
ところで、Anova関連の特許権が日本で登録されているかどうか気になり、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で調べてみました。
最初、「出願人/権利者」のキーワードとして「アノーバ アノバ」(OR)と入力し検索してみましたが、Anovaに関連する特許文献は見つけられませんでした。そこで、「請求の範囲」に「加熱 撹拌 真空 調理」(AND)と入力し検索したところ、いくつかの検索結果の中から、Anovaに関連すると思われる特許文献を見つけることができました(特許第5822962号:「サーキュレーター型調理装置」)。
※特許第5822962号公報の図1を引用
特許第5822962号公報の権利者および発明者の欄には、企業名(Anova社)ではなく、個人名(Anova社の共同創設者)が記載されていました。そこで、この個人名を「出願人/権利者」のキーワードにしてさらに調べると、Anova関連の出願が上記の他に5件見つかりました(いずれも現在審査中)。この5件のうち4件は、特許第5822962号(特願2014-25539号)の出願日後、同日に出願されており、下記の通り、Anovaの分解図、断面図と思われる図を含んでいます。
※特開2015-226779号公報(特願2015-111594号)の図3、4を引用
5件のうちの残り1件は、特許第5822962号(特願2014-25539号)を親出願とする特許査定後の分割出願(特願2015-198734号)です。
特許以外についてさらに調べてみたところ、「ANOVA」という商標が、マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録制度の下、国際出願されていることがわかりました(国際登録日:2016年3月31日)。国際登録時の指定国はAU(オーストラリア)、CN(中国)、EM(欧州連合)、JP(日本)であり、現在のところ、AU、EM、JPで商標登録されているようです。日本では2017年3月10日付けで商標登録されています(国際登録番号:1315640、商標権者:Anova Applied Electronics, Inc)。
このように、Anova社は、Anovaに関する産業財産権の取得を各国で積極的に進めているようです。Anovaは、現在、米国のショッピングサイトを経由してオンラインで米国および他国に販売されています。先日、Anova社は、世界第2位の家電メーカーであるElectroluxによって買収されることを発表しました。そのため、今後は、Electroluxの販売網を通じて日本の家電量販店等でもAnovaが販売されるようになるかもしれません。そうすると、日本におけるAnova関連の産業財産権の取得および活用が益々重要になってくると思います。
また、Anova社はAnovaの後継機やAnova以外の真空調理等に関する機器の開発も積極的に行っているようですので、Anova社の今後の動向にも注目したいと思います。